2012多文化共生講演会[姜尚中さん]のご報告
2012年12月15日。
ここ富山で新しい多文化共生の地平が切り拓かれました。
「姜尚中とともに考える多文化共生」
約500名の来場者とともに新しい時代の胎動を感じる講演会となりました。
姜さんから、穏やかでいて、凛としたお話をいただきました。
私たちの世界の国境は、または近代国家の”クニ”という概念は、わずか100~200年ほどの歴史の検証しか経ていないこと。それ以前は、もっと別の概念により自身の生まれや育ちなどに依拠していたものであること。それはすなわち、地域社会であり、地域の文化であり、食であり、酒であり、伝統工芸であり、祭りなど生きた文化、人との交流であるということ。
こうした地域に住む人間は、その地域内にしか存在しない文脈(コンテキスト)を持っているということです。同じ文脈の中で生きているので、多くを語らなくても意思疎通ができる。そうした心地良さの中に生きているということです。また別の言い方をすると、他の地域からみると、翻訳が必要な世界に生きているということになりますね。
異なる人・背景・文化との交流が人を成長させていく原動力ともなる。
私たちは、わずか100~200年の間に”クニ”というものを作り上げたが、同じ文脈に生きることに慣れ過ぎている。”クニ”というものは、果たして完成したものだろうか。私たちは、その”クニ”ができるまでは、様々な地域との軋轢や衝突を経験したはずである。
日本に生まれ、日本語を自由に操り、日本社会で当たり前のことを当たり前のように感じて生きているということは、ひとつの結果であり、日本社会が培ってきたもの、すなわち、私たちが日本社会のプロだという言い方も可能だろう。小学生の時から、文字を学び、歴史を学び、文化を学び、日本社会に生きる努力をし、トレーニングをしているからこそ、日本社会のプロになっているといえるのではないか。
ニューカマーと呼ばれる昨今の在住外国人に目を向けてみるとどうだろう。在住外国人は、日本社会においては、あるいは日本の文脈においては、プロという概念に照らしてみると、いわば学習途上のアマチュアともいえるのではないだろうか?日本に移り住み、もしくは日本に根付いて生きていこうとしている過程は、日本社会の文脈を学ぼうとしている、プロになろうとしているアマチュアに、その姿を重ねることはできはしないだろうか。
そして、プロはアマチュアと対峙することで、自らが、まだ、「途上の人」として学び続けなければならないことに気づくだろう。そして学ぶことを思い出すきっかけともなるだろう。大切なのは「気づき」を得ていくこと。
「途上の人」、人生の途上であるということは、すなわち「青春」であるともいえる。
同じように、私たちが多文化共生を考えるとき、それは青春の学びであり、「途上の人」という自覚であり、これから成熟していく過程であると捉えることが大切だろうということです。
講演会のあとには、「日曜美術館」での名コンビ再会となるNHK富山放送局の中條誠子さんとの対話となりました。ここでは、富山をフィールドのスポットにあててのお話となりました。
中條さんからは、富山に住む外国人からコメントとして、富山での生活や意見、富山の住みよさなどのご紹介があり、これに対して姜さんからの感想もいただきました。世界における多民族多文化の国家の状態と比較して、日本社会は多文化の受入に寛容ではないか、懐が深い多文化を許容する世界のどの国とも異なるポテンシャルがあるのではないか。とのことでした。
中條さんからは、同じく外国人からのコメントとして、私たちが忘れつつある富山の住みよさについて、外国人からの声のご紹介もありました。
最後に、姜さんは、数十年後を見据えた場合、歴史的背景や地政学的にも富山の立地は今後、環日本海の拠点となりうるだろうとのご意見でした。ダイバーシティ・多文化共生の拠点として、頑張っていきたいものです。
会場からの感想はとてもたくさんありましたが、姜さんの講演はもちろん、中條さんが富山のこと、富山の自然や生活に視点を置いて対談してくださったおかげで、姜さんのお話もよく理解でき、多文化共生が富山の未来の扉なのだと思いました、富山から発信しなくては!との感想もありました。中條さんにも感謝の言葉がございません!!!
姜さん、中條さん、本当にありがとうございました。
主催の富山県国際・日本海政策課のみなさまには、今回の講演会開催に際して、ダイバーシティとやまを協力団体としてくださったこと、有形無形のアドバイス、ご支援、とてもとても尽力いただきましたこと、感謝申しあげます。
あわせてダイバーシティとやま会員のみなさま、ドリプラ―なみなさまのご協力あっての賜物でした!大感謝!
舞台裏のことですが、姜さんは、講演前に、私にこう語ってくださいました。
「私たちは自己のうちに多様性を見出さなくてはならない。」と。
すなわち、ダイバーシティです。
文責:ダイバーシティとやま(柴垣)
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