12月, 2011年
「東アジアとともにいきる富山県の未来」開催概要
2011-12-07
2011年11月26日に、富山大学において開催しました報告会の開催概要をご報告させて
いただきます。 ◆基調講演 「多文化共生から始まる地域の未来」 田村 太郎(一般財団法人ダイバーシティ研究所) 日本はこれから外国人を受け入れようとしている国ではなく、すでに「多文化共生
社会」なのです。
というところから始まった田村さんのお話。田村さんの話は、どんなテーマであっても
ロジックがすっきりと通ってます。 日本は1990年の入管法の改正以来、外国人が増加傾向にあり、2008年のリーマン
ショック時以降は、減少傾向にありますが、統計的に見た場合、急激に減少したわけ
ということではなく、総数からトレンドをみた場合、微減と表現する方が適切。 そうしたことよりも、毎年、4~5万人の永住者が増加している事実の方が日本社会に
とってのインパクトが強い。 「ちがいに対する社会の対応」を2軸で4つの事象に分類した場合に、ヨーロッパで
失敗している多文化主義と、わたしたちが目指そうとする多文化共生では社会の
受け止め方が異なっていることがわかるとのことです。「棲み分け」的なヨーロッパの
多文化主義と「共生」では、ちがいを受容する社会の在り方が異なっていると指摘されます。
さらに、ヨーロッパがこれまで30~40年かけて社会実験してきた結果を踏まえ、
移民政策と福祉の社会化をセットで進めてきた国と、そうでない国では、女性の就業率に
差がでること。そのことが世帯当たりの所得差を生み、さらには出生率の増加につながり、
人口減少による影響を緩和させることができるだろうことをお話されます。 こうしたお話に対して、フロアからは、 ・マスコミ等の報道などから、宗教上の対立は相当、根深いものがあると感じられる。
こうした異なる宗教観を持つ人たちと共生できるのか。 との質問や、 ・外国人労働者が国内に流入することにより、日本人の(特に若年層の)就職に悪影響を
与えるのではないかといった質問などがありました。 田村さんによると、マスコミ等は、宗教の対立を背景・理由に見せているが、問題の
所在は経済格差にあるとコメントされました。また、国内の職の奪い合いは発生しておらず、
むしろ、国内の労働力の需給ミスマッチを外国人が埋めているとの分析でした。 日本はすでに多文化共生社会であると自覚し、社会や地域経済を衰退させないための
鍵をすでに、私たちは手に持っていると気づかなければいけませんね。 ◆報告① 「日本の出入国政策の現状と未来」 明石 純一(筑波大学) 日本の出入国管理法の研究者の立場に立つと…と、明石さんは冷静な視線で出入国
管理法の変遷や現状について、幅広い見地からお話をされました。 日本の出入国管理制度は、1899年から制度をみている研究者視点からは、昨今の
制度の変化のスピードは目まぐるしいものがあるとのことです。ここに人の受入(移民)
の様々なスタンスや法制度の複雑な階層性が絡み合い、出入国管理制度は、非常に理解
することが難しい制度になっていると指摘されます。
また、法令をさらに具体的に取扱うための基準となる通達やガイドラインの数も多く、
門外漢から見ると現場裁量が大きく見えるのは致し方ないともいえる。一方で、わずか
3500人の入管職員で、年間900万件もの出入国の手続きを捌いていることを考えると、
非常に効率的な運用形態にあることもわかるといわれます。 これからの地域での外国人の受け入れを考えていく場合には、他国の出入国管理制度を
参考にして、事業主や自治体が連携し、仕事の業種であるとか、受入人数であるとか、
実態やニーズに適合したスキームを作っていくことが必要であるとのことです。 日本の未来のことを考えた場合、出入国管理制度がその根幹にかかわる部分を担っていく
ことは間違いなく、出入国管理制度を単体で捉えるのではなく、さまざまな政策と絡めて
考えていかなくてはならないと、お話しされました。 こうしたお話に対して、フロアからは、 ・2010年に示された第4次出入国管理基本計画の進捗状況や、 ・ポイント制の導入について、どういった議論が行われているのかといった、専門的な
質問がありました。 明石さんによると、第4次出入国管理基本計画の進捗について、本年3~5月頃に骨子が
示される予定だったところ、震災の影響で延びているとのことであり、年明けには何らかの
形が示されることになるだろうとのこと。また、日本におけるポイント制の導入についての
議論は、各国のものとは少し異なり、すでに日本に住んでいる在住外国人向けの議論と
なっているとのことで、永住者を増やすようなベクトルを向いているとのお話でした。 ◆報告② 「富山県の受入事例から見た現状と未来」 林 広森(富瀋国際事業協同組合) 聞き手 坂 幸夫(富山大学) 林さんは中国からの留学生として富山大学に在籍し、卒業後は技能実習生の受入団体と
して富瀋国際事業協同組合(以下、「富瀋」)に勤務しています。日本各地をよく
知っているにも関わらず、富山に住み続け、富山を愛されている林さんならではの話を
お聞きしました。 富瀋は新潟県、富山県、石川県、岐阜県を対象に営業しており、カウンターパートの
企業は113社、実習生は347名とのことです。富瀋さんは、県内最大手の受入組合なのですね。 全国的に、技能実習生の実習先は縫製業が多い中、富瀋ではあえて建設業に多く送り
出しているとのことです。「縫製業はいろいろと問題が多いのです」とのことでした。 気になりますね。 実習生たちは最低賃金(690円)で収入を得ているわけですが、そこから必要経費を
引かれ、その残額を仕送りにしているのこと。ただ、以前はかなり窮屈な生活をする
実習生がほとんどだったが、最近では、来日後すぐに、まず携帯電話やパソコンを買う
実習生が多いのだそうです。 また、仕送りなどで貯めたお金は、やはり現在でも中国ではかなりの貯蓄額となるため、
マンションや車の購入に充てるそうです。そして、日本から帰国後の生活としては、
まず、最初の1か月は働かないとのことで、その後もほとんどが日系企業に就職し、
元の企業には戻らないとのことでした。こうした実習生は5年くらいは日本で生活したい・
働きたいと希望しており、受入企業側も熟練度の関係から同期間程度は滞在してほしい
というのが現場の声であるとのことです。現場からの声は非常に説得力がありますね。
こうした実習生の採用から日本での生活指導は非常にきめ細やかに行われており、
これを書いている柴垣にとっては「そこまでやるのか!」という驚きも隠せませんでした。
(ココ、行間をたっぷり読んでくださいね!) 実習制度の今後のこととして、研修制度から実習制度へと移行したことや、中国からの
実習生の受入についても、中国の賃金水準が高くなってきていることからも、厳しくなって
いくのではないか? との問いかけに対して、林さんは「確かに厳しくなってきており、ベトナムにシフトして
きている」という全体的なことをお話しされたうえで、「それでも中国にはまだ7億人も
地方に(田舎に)住む人がいるので、人件費の安い労働力はまだまだ豊富」と語り、
中国という国の片りんを伺わせていただきました。 ◆報告③ 「外国人労働者と日本経済」 後藤 純一(慶應大学) まず後藤先生は、外国人労働者の受入について、これまで、様々な機関で、様々な
研究者等が議論を行ってきたが、まったく進展していない。と、一刀両断されました。 このため、後藤先生は冷静な議論を促すためにも、応用一般均衡モデルによる定量的な
笹川モデルを構築し、どの程度の外国人を受け入れたときに、社会に与えるインパクト・
経済効果はどの程度あるのかということを提示されました。 今後、120万人、300万人、1,000万人受け入れた場合、それぞれのGDPの引き上げ効果を
シミュレーションし、例えば、300万人の外国人を受け入れた場合は、我が国のGDPを
3.8%(20兆円)引き上げる効果があるとのことでした。 また、産業別に見た場合、第3次産業に与える影響が大きく、高度技能者の受入の方が
経済効果が大きいとのことでした。 まとめとして、 ・外国人労働者は生産および消費の担い手となる ・経済効果はプラス としたうえで、 ・経済効果だけで判断すべきではない ・プラス効果を得るためには体制整備が必要 とされました。 こうした論点整理を丹念に行い、冷静な議論を行っていく必要がありますね。 ◆パネルディスカッション 「地域経済を支える外国人住民と富山県の未来」 パネラー 後藤 純一(慶應大学) 田村 太郎(一般財団法人ダイバーシティ研究所) 明石 純一(筑波大学) 林 広森(富瀋国際事業協同組合) 宮田 妙子(NGOダイバーシティとやま) モデレーター 柴垣 禎(NPO法人多文化共生マネージャー全国協議会) ◎柴垣 パネリストとして新しく登壇者に加わった宮田さんから、日本語教師という経験や
富山での留学生の状況について、まずお話を伺う。 ◎宮田 自分の所属する日本語学校では、これまで600人以上、富山県で日本語の勉強をしており、
103人は富山県内の大学(富山大学は52人)に進学しており、51人は専門学校に入学、
その他は帰国者等となっている。 大学進学後の状況は、約半数は富山で就職したり、起業(貿易やリサイクル、物産展、
IT関連等)している。就職先としては、YKKや三協立山アルミなど、富山でも
名の知れた企業に就職しており、日本で家を建てた人もいる。富山が好きだと言ってくれる
人も多く、富山で経済活動をしている人も多い。帰国した学生も、何らかの形で日本に
つながりのある企業に勤めている人も多くいる。 ◎柴垣 宮田さんの話から、富山で住み続ける外国人が、就学や留学ビザ、企業活動へと
転身していっている様子がうかがえるが、こうした人生や生活をデザインするといった
視点での在留資格や入管制度の議論はないものか。 ◎明石 入管制度としてはそうした視点はないし、議論もほとんどない。今の宮田さんのお話に
あったとおり、実態として、在留資格を切り替えていくといった組み換えによって、
生活をデザインしていくことが可能である制度。 ◎柴垣 生活のデザインもそうだが、今後の人口減少社会を想定した場合、魅力ある地域
づくりが必要との観点で、全国各地で、豊かな地域生活のデザインづくり、いわゆる
交流人口の増大や定住化施策、国際観光といったことを行っている。いずれの自治体も
どんぐりの背比べといった状況で、決め手に欠けているように見受けられる。
これを打開するためにはどうした視点が必要か。 ◎田村 各自治体なり地域の魅力の情報発信が少ないと思われる。もっと情報発信すべきだろう。
富山が魅力ある地域であるということを、富山に住む外国人に発信してもらうことで、
その情報に付加価値が付き、情報としての質が高まる。 例えば、北海道のニセコ町のパウダースノーはオーストラリア人がその価値を発見し、
情報発信している。地元の人にはそのパウダースノーが当たり前のものであり、雪質の
とてもいいものであるという視点が欠け気味である。こうしたオーストラリア人の
発信する情報を得て、コンドミニアムを中国人観光客が利用している。こうした視点での
情報発信が必要。 ◎柴垣 では、地元、富山の魅力とはどういったものがあるだろうか。外国人の視点から、
富山はどのように見えるのか。 ◎林 富山には魅力がたくさんある。空気もきれい、水も美味しい、温泉は外国人にも、
とても評判がよい。外国人との交流の場・機会をもっと増やし、そこで地域の魅力を発見し、
情報発信を行っていくことがいいだろう。 ◎柴垣 地域に住む人だけでは地域の魅力は高まらないし、人口減少社会の影響を緩和させる
ことも難しい。この課題に対応するには、外国人の移民は欠かせない政策のひとつ。
こうした外国人の視点により地域の魅力が再発見され、情報の発信力が高まり、好循環が
生まれる。 今回の報告会は、今後の富山の、地域の未来にとって有意義なものとなったと思う。
以上をもって、報告会を終了する。 ◆フロアとの意見交換もありましたが、今回は、省略させていただきます。また、
みなさんとお会いする時を楽しみにしています。次の機会にお話をさらに深めていきたいと
思います。 今回の結果概要をお読みになり、ダイバーシティにご関心をお持ちになった方は、
ぜひ、ご連絡をください。