1月, 2013年

NPO通信[北陸中日新聞掲載記事]2012.3.27~6.12

2013-01-01
NGOダイバーシティとやま(1) 「人の多様性」理解を
2012年3月27日

富山市内で日本語を学んでいた外国人留学生たち=同市で

 人種や国籍、障害などにとらわれず、一人一人が力を発揮できる地域社会
を目指す「NGOダイバーシティとやま」。多文化共生から障害まで、幅広
いテーマで研修やフォーラムを開く。その根底にある考え方とは-。
 「あの子、ちょっと変だよね」
 こんな言葉を最近よく耳にします。あなたの近くにも、一人くらいはいま
せんか?
 「あれ?」と思う、その「ちがい」こそ、「人の多様性(ダイバーシティ
)」です。
 「ちがい」は、人の数以上に存在します。国籍、世代、男女などの誰でも
実感できるものもあれば、けがや病気の有無、障害の有無、生活困窮など経
済的な違いなど、経験しないと理解できない「ちがい」もあります。
 こうした「ちがい」で、私たちの日常は大きく変わります。「病気になっ
て、健康の大切さが初めて分かる」とはよくいわれます。これは一人一人、
個人的な世界にすんでいるということを物語っています。
 日本には二百万人を超える外国人が住んでおり、県内にも多くの日系ブラ
ジル人や中国人、フィリピン人の方々が生活しています。
 私たちは彼らと出会い、最初のうちは私たちと彼らの間にあるのは、言葉
や文化、宗教などの「ちがい」だと考えていました。しかし、彼らと過ごす
時間が増え、理解が深くなるに従い、次第に、国籍などに由来する「ちがい
」だけではない多様性に気付くようになりました。
 思い返してみると、私たち自身、他県で暮らしたときに、今まで意識した
ことがなかった「富山県出身者としての自分」を感じて、出身地による「ち
がい」に気付くことがあります。同じように、他県から富山に来られた方か
らは、「あれ?」と感じるという話を聞くことがあります。これもさまざま
な多様性を実感する瞬間です。
 そして、私たちが異なるもの(ダイバーシティ)と出会ったときに、初め
て「あれ?」と思うものなんだなと気付きます。こうして、ちがいに気付く
大切さに出合いましたが、ダイバーシティとやまが生まれるまでには、まだ
まだ、もう少しの長い道のりがありました。
(NGOダイバーシティとやま副代表理事・柴垣禎)

 <団体情報>
 団体名=NGOダイバーシティとやま
 主な活動=国籍や年齢、障害など、一人一人が自分の「ちがい」を活かし
て活躍する社会の実現をめざし、人の多様性(=ダイバーシティ)に配慮し
た「しなやかな地域づくり」を提案しています。
 住所=射水市太閤山7の25
 会員数=42人
 メールアドレス=diversity.t@gmail.com
 電話=090(7749)8793
 ホームページ=http://diversity-toyama.org/
 代表理事=宮田妙子

NGOダイバーシティとやま(2) 違い認め 社会豊かに
2012年4月3日

キッズコーナーで楽しそうに遊ぶ子ども=氷見市で(ダイバーシティとやま
提供)

 「ちがい」は面倒なものではなく、付加価値につながり、豊かな社会をつ
くっていく-。障害や貧困などによる負担感も、その人の価値として生かし
たい。そんな願いがダイバーシティとやまの活動には込められている。
 以前は、おむつ替えシートや授乳室も街中にはあまりなく、乳幼児連れの
お母さんがショッピングするのもひと苦労でした。
 子育て世代にせよ、お年寄り、障害者にせよ、生活していくうえで「+α
(アルファ)」として必要なものがたくさんあります。これを積極的に社会
に取り込んでいくのか「よけいなモノ」「面倒なモノ」として排除するのか
で、世の中の寛容さや柔軟性が大きく変わります。
 例えば、おむつ替えシートも授乳室もない世界で、授乳の必要な子育て夫
婦が買い物に出かけたとして、どう感じるでしょうか。便座でおむつ替えし
たり、車の中で授乳したり、周りの目を気にしながら泣く子をあやしたりし
ます。やがて疲れ果て、買い物にも子育てにも、ぐっと負担感が増すでしょ
う。
 最近のショッピングセンターには授乳室もキッズコーナーもあり、買い物
の合間に子どもたちを遊ばせるパパたちの姿も当たり前のように見かけます
。このような所には、子育て世代のお客さんがたくさん集まっています。
 これは企業側が「ちがい」を持った人たちが、その「ちがい」を理由に、
高付加価値の商品を求める消費者(生活者)であることを察知し、商品や売
り場(環境)に付加価値(買いやすさ)を与えているということです。ひと
りひとりの違いを積極的に認め、その価値を見いだすことが社会を豊かにす
る起爆剤となるのです。
 貧困、うつ病、DVなど、目に見えない、気付きにくい負担感を抱え、社
会生活にハードルを感じている人々も数多くいます。こうした人々が、自分
に原因や理由があるから生活しにくい、外出が負担と感じる世の中ではなく
、環境(売り場)側が受け止める。「ちがいに気付き、ちがいを活かす」こ
とで、障害・ハードルを感じることがなくなる(あるいは少なくなる)ので
はないか。私たちがそう気付いたとき、ダイバーシティとやまの種が落ち、
すくすくと育ち始めたのでした。
(NGOダイバーシティとやま 柴垣禎)

NGOダイバーシティとやま(3) 「ちがい」を活かそう
2012年4月10日

ドリームプランプレゼンテーション富山で、ダイバーシティとやまの夢を発
表=富山国際会議場で(ダイバーシティとやま提供)

 ダイバーシティとやまが目指すのは「ちがい」を活かし、誰もが活躍でき
る社会。外国籍や障害を理由に夢をあきらめてほしくない。そのために社会
を変えよう。道のりは「夢を語ること」から始まった。
 ダイバーシティとやまは、多くの人に支えられ、活動をスタートすること
ができましたが、誕生のきっかけは、設立発起人の宮田妙子が彼女の夢を語
ることから始まりました。
 みなさんは子ども時代、どんな夢を持っていましたか? 「イチローみた
いな野球選手になりたい」「ナイチンゲールのような看護師になりたい」…
。さまざまな夢があったのではないかと思います。そして、その夢の多くは
、人をワクワクさせ、感動を与えるものであったり、幸せをもたらすものだ
ったのではないでしょうか?
 しかし、私たちは子どもたちや若者が生きにくさを感じ、夢を失っていく
現実に直面することがあります。そしてその原因のほとんどが、社会の側に
あったり、心の中にあることに気付きました。
 外国籍の子どもや若者たちは言います。「いくら頑張ってもテストの点が
取れない」「日本で働くのはとても難しい」、そして最後には「私たちは外
国人だから」と。障害のある子どもや若者たちと、周囲の同年代の人との理
解の仕方や、行動のパターンなどが「ちがう」ことで、彼らはとても苦しみ
、夢をあきらめてしまうことを知ってしまいました。
 今では、例えば発達障害があっても、歴史上の偉人であったり、スクリー
ン上で活躍する俳優、漫画家など、多くの人に感動を与え、夢を与えている
人々がいることが知られています。自分の「ちがいに気づき」、「ちがいを
活かす」ことで、より豊かな社会をつくりだすことができることが知られて
います。外国人であっても、日本の社会のために、必要不可欠な人が数多く
いることも事実です。
 そのことを、もっと多くの人に知ってもらいたい。「ちがいを活かす」こ
とは、誰もが住みやすく、しなやかな社会をつくっていく起爆剤になるのだ
と知ってほしい。多様性に配慮した魅力あふれる富山県になれば…という宮
田の夢が、一歩、現実のものとなり、「非政府組織(NGO)ダイバーシテ
ィとやま」が生まれたのでした。
(NGOダイバーシティとやま・柴垣禎)

NGOダイバーシティとやま(4) 多文化共生 人対人で
2012年4月17日

留学生と小学生の交流=射水市で

 現在、日本に住んでいる外国人は200万人以上。富山県にも2011年
末で1万3718人の外国人が暮らしている。異なる文化を持つ彼らがしば
しば抱える暮らしづらさ。そこから見えてくるものとは-。
 私は富山で二十年間、日本語教師をしてきました。その間、二十カ国以上
の留学生や企業研修生に日本語を教えてきました。
 最初は希望を持って来日した留学生。そんな彼らがだんだん暗い顔になっ
てくるのを幾度となく見てきました。ただのカルチャーショックではなく、
それが差別に起因する場合もあります。
 彼らが日本で差別を感じるシーンとして、外国人はお断りというアパート
やお店があったり、アルバイトの面接に行くと「うちは外国人は使わないか
ら」と言われたりすることがあります。また、アジアの留学生から「日本人
は国際交流というと欧米人との交流だと思っている人が多い。アジアの留学
生に対する偏見を感じる」という声をよく聞きます。
 日本人の側からは「郷に入れば郷に従え」という声や、トラブルがあると
面倒だから外国人居住区をつくり、日本社会とすみ分けしたらいいのではな
いかとの話を聞くこともあります。
 でも、同化したりすみ分けをするのではなく、同じ地域の中で共生してい
く中で、私たち自身が予測もしなかったプラスの反応を生み出せることもあ
ります。
 例えば外国人留学生が厨房(ちゅうぼう)に入ったことで、お店の看板メ
ニューが増え、商店街の人気店になったお店もあれば、今まで老人ばかりだ
ったアパートに若い外国人が住み始め、一緒にお茶を飲むなどして交流する
うちに、元気のなかったお年寄りがいきいきしはじめた所もあります。
 同じ地域で共生していく中で、ちがいをマイナスではなくプラスにしてい
くためには、〇〇人はこうだから、とステレオタイプに当てはめるのではな
く「お隣に住む王さん」として話すことが大切です。「国」対「国」ではな
く「人」対「人」。異なる文化を持つ外国人を、共に地域に生きるパートナ
ーとして接していくことが、多様性を包み込みしなやかな地域社会をつくり
上げていく要素になることでしょう。
(代表理事・宮田妙子)

NGOダイバーシティとやま(5) 見えない「悩み」軽減
2012年4月24日


「ディスレクシア」視覚は正常だが、文字が2重に見えたり、動いたり、反
転する、ゆがんで見えるなどの症状がある(写真はイメージ)

 ものごとには原因と結果があり、どちらかというと結果の方が目に見え、
原因は見えにくいものです。ダイバーシティに関しても、心の中に存在する
原因にはなかなか気付きにくいもの。今回は、目には見えない「心の多様性
」に迫ります。
 心の中にある「ちがい」は、目に見えにくいがゆえに、差別や偏見を生み
やすいものです。
 私には、軽度の広汎(こうはん)性発達障害の人から急性期の精神疾患の
人まで、目に見えにくい「ちがい」を持つ人に接してきた経験があり、彼ら
の悩みや苦しみに直面してきました。例えば、アルコール等の依存症の人が
「だらしない人」と見られたり、うつ病やひきこもりの人が「なまけ病」だ
といわれるのは根拠のない偏見です。それによって事態がさらに悪化するこ
とも多々あります。
 自死遺族の人や、多重債務などの生活に困窮している人たちも、外から見
えにくい「しんどさ」を内側に抱えています。周りと自分の「ちがい」が理
解されないことによって、外から見えない「しんどさ」がさらに高まります
。こうしたときに、周囲の人がしんどさを理解し、そのしんどさを軽減させ
るように周りの仕組みを変えていくことが大切です。
 ディスレクシア(識字障害)の子供は、成績もよく、すらすらと問題を解
いているように見える一方、教科書の字を読むことに他の子の何倍も時間が
かかったり、黒板の板書を書き写すことが困難で、教室でつらい思いをする
ことがあります。
 こうしたときに、パソコンのような文字入力の機械を使ったり、デジタル
カメラで黒板を写すことで「しんどさ」が消失し「ちがい」が環境に活かさ
れることになります。現代社会は、こうした「ちがい」を活かすスキル(方
法)をたくさん持っているのです。
 内側にある原因が外側に現れたとき、外側から判断して「おかしいよ」と
か「なまけている」とみるのではなく、ちがいの原因をしっかりと見つめ、
それを外側からアプローチしていくことが大切なのです。
 心の中の「ちがい」を、社会を豊かにする「気づき」とし、原因をきちん
と社会化して共有できるかどうかは、私たち次第なのかもしれませんね。
(NGOダイバーシティとやま・柴垣禎)

NGOダイバーシティとやま(6) 絆が地域の原動力に

2012年5月1日

NGOダイバーシティとやま設立記念フォーラムの様子=高岡市で

 多様な人が生き、それぞれがつながるソーシャルインクルージョン(社会
的包摂)が求められつつある日本社会。富山を拠点にして、昨秋に設立した
非政府組織(NGO)ダイバーシティとやまでは、未来志向の提言をしてい
く。まずは、なぜ今ダイバーシティなのか-。
 昨年十一月三日に「富山発! 未来を築くダイバーシティ」のテーマで、
設立記念フォーラムを開催しました。基調講演では、人口減少社会を迎え、
一部の労働力人口に依存するのではなく、多様な存在が、それぞれの力を発
揮していく地域社会の未来についてお話ししました。
 事例報告会では、障害福祉の現場から「+(プラス)思考で障がいが活き
る経営戦略」として、社会福祉法人むそうの戸枝陽基さん、また、外国籍児
童生徒の現場から「外国にルーツを持つ子どもたちの今と未来」として、愛
知淑徳大の小島祥美さんに、それぞれの立場からご報告をいただきました。
 現代社会では、障害者も外国人も、支援される側の人であるという認識が
多いのですが「障害や国籍のちがいは、一人一人のかけがえのない個性であ
り、多様性が優れた能力として社会(組織)に還元され、社会がそれを受け
いれることで、社会全体が心地よい空間となり、誰にとっても住みやすい地
域社会へと方向転換できる」ということを、具体的な事例を通じて報告いた
だきました。
 先進的な報告を受けて、パネルディスカッションでは、県内で多様な存在
との関わりを実践している方々を交え、地域に密着したダイバーシティ社会
の在り方を、会場と一緒に考えました。
 また、十一月二十六日には、富山大で「人口変動の新潮流への対処」とし
てフォーラム「東アジアとともにいきる富山県の未来」を共催。グローバル
な人の移動に視点をおき、地域社会で多文化共生を育んでいくことこそが、
東アジア、ひいては環日本海圏を基軸として、真に魅力ある地域づくりのき
っかけとなることについて話し合いました。
 ダイバーシティとやまでは、これからも定期的なフォーラムを開催し、人
と人とのつながり、絆の大切さが、地域の豊かさや住みやすさをつくり出し
ていく原動力になるのだと伝えていきたいと思っています。
(NGOダイバーシティとやま代表・宮田妙子)

NGOダイバーシティとやま(7) 言葉の壁越え対話

2012年5月8日


海外4カ国から18人と、国内の41人が参加したワールドカフェ=富山市
で

 ダイバーシティとやまでは、ちがいを活かすための事業として、ワークシ
ョップを開催している。ワークショップとは本来、作業場や工房の意味。フ
ァシリテーターと呼ばれる人が進行役となり、参加者が積極的に問題解決を
体験的に学ぶ場なのだ。
 ダイバーシティとやまで「ワールドカフェ」を開催した時には、日本の方
四十一人、外国の方(米国、韓国、中国、ネパール、ブラジル)十八人が参
加しました。
 ワールドカフェは、「知識や知恵は、オープンに会話する『カフェ』のよ
うな空間でこそ創発される」という考え方に基づいたワークショップです。
単なるおしゃべりという意味の「会話」でも、勝ち負けを決めるような「議
論」でもなく、さまざまな背景をもつ人たちと「対話する」ことがベースで
す。
 一テーブル四~六人に分かれ、同じテーマでテーブルごとに対話し、途中
テーブルのメンバーが入れ替わります。外国の方がこれだけたくさん参加し
たワールドカフェは北陸では初開催だったと思います。
 日本人、外国人ともに、「今まで国際交流パーティーのような場に参加し
ても、表面的なことしか話せなかったけれど、ここでは深いところまで真剣
に話し合えた。とても楽しかったし、いろんなことを考えさせられた。機会
があれば、またぜひ参加したい」といった新鮮な驚きと意欲的な反響が数多
く寄せられました。
 日本人も外国人も、お互いに踏み込んだところまで話し合いたいと思って
いても、その場が今までつくられていなかったということにも気づかされま
した。
 また、ファシリテーション(会議を活性化して合意形成を促進する手法)
を提案している企業の代表、ちょんせいこさんを講師に、意見を活かす効率
的な会議の方法としてのホワイトボード・ミーティング入門講座を開催しま
した。
 ホワイトボード・ミーティングは、議論を「発散」「収束」「活用」に分
け、ボソッとつぶやいた意見もホワイトボードに拾いながら良好なコミュニ
ケーションと共通のルールを育む、画期的な会議の手法です。
 ダイバーシティとやまはこれからも、さまざまなワークショップを通して
、ちがいに気づき、ちがいを認め、ちがいを活かす場づくりを積極的に行っ
ていきたいと思っています。
(NGOダイバーシティとやま代表・宮田妙子)

NGOダイバーシティとやま(8) 多様性 一つの光に

2012年5月15日


菅沼合掌造り集落をブルーにライトアップ=南砺市で

 四月二日の世界自閉症啓発デーに合わせて、世界中で建物や史跡がブルー
にライトアップされる「世界自閉症啓発デーライトアップブルー」。ダイバ
ーシティとやまは、富山でまだ行われていないのを知り、ぜひ「富山にも青
の光を!」と、実行を決めた。
 富山が誇る世界遺産五箇山合掌造りをブルーにライトアップすることで、
自閉症や発達障害の方々の素晴らしさを少しでも多くの人に伝えたい。そん
な私たちの呼び掛けに、実にたくさんの人が動いてくださいました。
 まず、越中五箇山菅沼集落保存顕彰会のみなさんが、菅沼集落でライトア
ップすることを快諾してくださり、自閉症支援施設めひの野園うさか寮施設
長の東真盛さんが、菅沼合掌集落の吾郎平さんで自閉症に関するワークショ
ップを開催してくださることになりました。
 当日は会場に入りきれないほどの人が来られましたが、その多くは今まで
まったく自閉症のことを知らなかった方々。そんな皆さんが、東さんのお話
に真剣に耳を傾けられ、新たな気づきを得たとの声をたくさんいただきまし
た。
 このイベントに協力してくださった大半は、普段福祉の仕事に携わってい
ない方々でした。五箇山のみなさんはじめ、任意団体ひとのま、ヤマシナ印
刷、はちどりBANK@とやま、I LOVE南砺のみなさん、そして元気だそ
うぜ!富山福祉ネットワークや、多機能型事業所花椿(つばき)かがやきの
みなさん。いろんな分野のみなさんと一緒にこのイベントができたこと、そ
れはまさしくダイバーシティが根付いた富山を目指す私たちの願う在り方で
した。
 震災復興支援でも、包括的なつながりを大事にしています。
 被災エリアの授産品を販売して、被災した障害者福祉施設の経営・障害者
の収入を支え、義援金の約八千倍の効果があるといわれる経済活動支援「ミ
ンナDEカオウヤ」プロジェクトに参加。福祉施設以外の県内四カ所(富山
・LiTa Club、高岡・ひとのま、小矢部・LiTa Oyabe、
滑川・森本自動車)で商品の販売にご協力をいただいています。
 ダイバーシティとやまでは、これからもさまざまな分野のみなさんをつな
いで、それぞれのちがいが活きる、しなやかな社会づくりを目指していきま
す。
(NGOダイバーシティとやま代表・宮田妙子)

NGOダイバーシティとやま(9) 多様な人生ブログに

2012年5月22日


ブログ「『ダイバーシティとやま』な日々」

http://blog.canpan.info/diversityt/

 NGOダイバーシティとやまでは、ブログ「『ダイバーシティとやま』な
日々」を運営。多様な人にスポットを当て、その人のこれまでの活動や生き
方についてインタビューしたものを掲載している。
 インタビューは「今日の人」と題し、県内を中心に多種多様な分野の人を
取り上げてきました。
 昨年十一月からこれまでに取り上げた方は三十八人。富山で大人の学び場
を提供しているLiTa Clubの平木柳太郎さん、朝活ネットワーク富
山の永吉隼人さん、はちどりBANK@とやまの向早苗さんなど、実に多様な方
々がインタビューに応じてくださいました。
 普段何げなく接している目の前の人が、どうして今の仕事や活動をするよ
うになったのか。普段どんなことを考えているのか。
 身近にいても実は深くは知らなかったことが、その人の半生を知ることで
見えてくることがあります。それが、その人の生き方と結びついて、深い感
動を覚えるのです。
 例えば、ブログで記事にさせていただいた日本のダイバーシティ、多文化
共生の第一人者、田村太郎さん。田村さんは、若い時、ベルリンの壁が崩れ
東西ドイツが統一して初めてのお正月をドイツで迎えたり、アルジェリアか
らサハラ砂漠を通ってニジェールに渡ったり、アパルトヘイト(人種隔離)
の過渡期の南アフリカをヒッチハイクして歩いたりしていました。
 ヒッチハイクでは、ベンツの白人にもトラックの黒人にも、家に泊まって
いけと誘われます。白人の家はプール付きの豪邸。黒人の家は千人が住むと
ころにたった二つ水道の蛇口があるだけの所。やがて田村さんはケープタウ
ンから船でブラジルへと渡ります。
 ブラジルに行くと、そこでは黒人と白人が一緒に働いていました。南アフ
リカでの黒人の鬱屈(うっくつ)した思いが晴れるような現場をいきなり目
にしたわけです。
 まったく違った価値観。きっと日本から直接ブラジルに渡っていたら、こ
んなにも衝撃を受けることはなかった。南アフリカからブラジルへ渡ったこ
とが彼が多文化共生に目覚める一番大きなきっかけになったのです。
 こんなふうにブログを通して、多様な人々の人生の一端に触れ、そして人
々をつないでいくこと。これもダイバーシティとやまの大切な役割だと考え
ています。
(NGOダイバーシティとやま代表・宮田妙子)

NGOダイバーシティとやま(10) 災害時 多様性目線で

2012年5月29日


東日本大震災直後の外国人向け多言語支援センターの活動。多様性に配慮し
た支援活動をしている=大津市で

 ダイバーシティとやまでは、今年の三月三十一日に「災害時こそダイバー
シティ」というテーマで研修を開催。二〇〇七年の新潟県中越沖地震や一一
年の東日本大震災では、私たちがさまざまな違いを持った多様な存在である
ことを、強く意識することが分かっている。
 過去の災害から、男女の性差や、年齢、病気や障害の有無など、ココロや
カラダのちがいは、単なる属性を超えたものであり、他者への配慮や住みや
すさを生み出す大切な要因であることをうかがい知ることができます。
 研修当日は、災害時の外国人支援活動に従事した経験を持つ講師をお迎え
し、高齢者や障害者、外国人といった災害弱者とよばれる方々への支援活動
の現場をお伝えすることを通じて、日常生活にも活かすことができるダイバ
ーシティのヒントを提供することができました。
 そのポイントは、多様性を優位として捉えるということ。多様性に配慮す
ることで、実際の仮設トイレや避難所が変化します。例えば、高齢者が動き
やすく、女性に配慮された避難所は、快適さが増します。外国人にわかりや
すい「やさしい日本語」で災害情報を伝えることは、日本人の高齢者や子ど
もにとっても理解しやすい情報であるため、安心感が高まります。誰もが過
ごしやすい避難生活をつくるための材料が、多様性にはあります。
 このことをしっかり見据え、多様な存在のひとりひとりが、かけがえのな
い地域社会の担い手になってもらうことが大切なのです。
 また、参加者全員が体験するワークショップでは、グループ別に障害者や
外国人などのキーマンを迎え、当事者目線による災害時の対応を話し合いま
した。これを通じて、日常生活の中にダイバーシティを活かしていくことを
考えることにより、参加者のひとりひとりに、大切なお土産を持ち帰ってい
ただくことができました。
 会場からは、目からウロコ!との声もあり、今後も、こうした研修を続け
ていくことが大切と感じています。
(NGOダイバーシティとやま・柴垣禎)

NGOダイバーシティとやま(11) 三つの「視点」重要

2012年6月5日

 「ダイバーシティ」は「多様性」と訳されることが多いが、本当はもう少
し深い意味を含んでいる。ちがうものがいろいろあって互いに影響を及ぼし
あいながらも、全体としても調和がとれている状態がダイバーシティなのだ
。

 分かりやすいのは「バイオ・ダイバーシティ」。「生物多様性」と訳され
ますが、いろんな生物がいるというだけでなく、全体として調和がとれてい
て、ともに存在しつづけられることが大切です。
 人の多様性、「ヒューマン・ダイバーシティ」も同じです。ただ「いろい
ろあっていいよね」ということではありません。互いに影響を与えつつ、新
しい社会を形成しようとする試みがダイバーシティなのです。
 地域や組織でダイバーシティを推進していくには、三つの視点が重要です
。一つめは「あってはいけないちがいをなくす」という視点。教育を受ける
ことや大切な情報を得ることなど、基本的な人権にかかわるものにちがいが
あっては困ります。ちがいに配慮しながら、等しく権利が守られるようにす
ることが必要です。
 二つめは「なくてはならないちがいを守る」という視点。大切にしたい文
化や習慣、自らが「こうありたい」と思う気持ちはそれぞれです。全体とし
て調和がとれているということと、みんなが同じようになるということは異
なります。大切にしたいちがいを守っていく視点が重要です。
 三つめが「ちがいを大切にする文化をつくる」という視点です。地域や組
織にちがいを持つ人がいるということを認識し、あってはいけないちがいや
なくてはならないちがいについて知る。その上でどう行動すれば良いのかを
考える視点なくして、地域や組織のダイバーシティ推進はありえません。
 障害者や外国人など、社会の中で少数派の人の課題について考えるとき、
私たちは少数者の側にのみ視点を集中しがちです。就学や就労の支援を通じ
て社会的な少数者が力を発揮しようとしても、地域や組織の側がダイバーシ
ティの視点を持っていなければ、再び排除されることになります。「いろい
ろあっていいよね」で終わることなく、互いに影響を及ぼしあいながらも調
和がとれている地域や組織をめざしていくことが大切なのです。
(ダイバーシティとやま・一般財団法人ダイバーシティ研究所代表理事 田
村太郎)

NGOダイバーシティとやま(12) “富山モデル” 世界へ

2012年6月12日


ひとつの芽は、やがて大樹となり、多様な命を守り育む森へ

 現在、人口減少と少子高齢化という大きな課題に直面している日本。従来
の成長モデルが通用しなくなりつつある今、「ダイバーシティ」の発想が、
新しい地域社会づくりのヒントとなる。

 人が減るということは、消費者が減るということ。すなわち、企業にとっ
ては収益が減り、行政にとっては税収が減ります。
 企業は新たな消費地や労働力を求めて海外に拠点を移し、地域には働く場
が少なくなります。また、今までの人口を前提として投資された上下水道や
道路などの社会資本の維持や、老朽化した施設の更新も困難になります。
 これまで、あまり感じられなかった人口変動社会の影響は、ある時点を越
えると、急激に進展すると予測されています。
 さて、今、日本は世界で最も早く人口変動社会を迎える、いわばトップラ
ンナーの位置におり、世界中が日本社会の動向を注目しています。
 なぜなら、東アジアも欧州も深刻な人口減少社会を迎えることが予測され
ているからです。日本がどのような施策を展開し、どのように推移していく
のか、注目されているのです。
 私たちは、人口変動社会の影響を緩和させるキーワードのひとつがダイバ
ーシティであると、考えています。それは、誰も排除されることなく、多様
な個性を持つ人たちが、快適で生活しやすく、障害者でも高齢者でも外国人
でも仕事をしやすい環境を整え、すべての人が社会包摂された地域社会を創
り上げていくことです。
 誰もが住みたくなる魅力ある地域社会を創り上げたとき、それが世界のモ
デルとなるでしょう。そして私たちは、世界のモデルとなる富山を実現した
いと願っています。
 変化しているときには、なかなか気付くことができませんが、あとから振
り返ったときに、あのときに大きな変化が起きたのだと顧みたいものです。
 大切なことは、今の水準を維持しようと考えるのではなく、少なくとも次
の世代が生きる人の世界観をもち、現在の生活を、少しずつ質的に変化させ
ていくことです。ちがいに気づき、ちがいを活かし、ちがいが創るしなやか
な地域社会に向けて。
(NGOダイバーシティとやま 柴垣禎)

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