「外国人や自閉症・発達障害の人たちがいる避難所運営を考える」セミナー開催のご報告
10月29日(火)富山県防災危機管理センターにて「外国人や自閉症・発達障害の人たちがいる避難所運営を考える」セミナーを開催しました。
外国人キーパーソンの方、自閉症・発達障害の支援者の方、行政の方、防災士の方、NPOの方、合わせて31名の方が参加してくださいました。
「バブルガムから見える多様性」って何だろう?というイントロから始まるお話。
え?それって何?と感じることからこそ多様性への理解が深まります。
メジャーリーグの選手たちが試合中にガムを噛んでいることはよく知られていますが、アメリカではガムを噛みながら授業を受けてもいいとのこと。だから「いい」とか「悪い」とかではなく、これは文化の違いだったり習慣の違い、考え方の違いに過ぎません。ふだん自分たちが思っている普通は普通なのでしょうか。
今日の講義は、お二人の講師のお話とワークショップを中心に進められました。お一人はアメリカでの消防士、救命救急士の他、大リーグヤンキースや日米野球などでの通訳としても活躍されている坂井公淳さん。冒頭に大リーグの試合の時に選手たちが必ず噛んでいるガムが出てきたのも実際に坂井さんが現場にいて、選手たちが噛んでいるガムを参加者の皆さんに配ってくださったので、私たちもよりその雰囲気を実感!坂井さんは今、長野県飯田市で子どもたちが言語、国籍、障害の有無に関係なく集える(一社)感環自然村の代表もされています。
坂井さんからは災害時に思いを馳せて考える時間「災害時の多様性と付き合う”コツ”」として話をいただきました。多様性というと、難しく感じられる部分もありますが、子どもたちは多様性や違いに慣れるのがとても早い。例えば、坂井さんが主宰するプログラムに全盲の女の子が参加することになったとき、どう受け入れるか、プログラムに参加させてもいいのかどうか、子どもたちと相談しました。大人だとなかなか聞きにくいことであっても、子どもたちは素直にその子に聞いてみるという場面が多々あります。あるとき、その女の子の友だちが「どうして〇〇ちゃんは、いつもうつむいているの?」と聞きました。女の子は生まれたときから全盲なので、目の見えている人が、どういう姿勢で生活しているのか知りません。するとその友だちは「こんな姿勢なんだよ」と頭をエイっと持ち上げたのです。全盲のその子は、「そっか、みんなこんな姿勢でいるんだね」と知ることができたのです。そういうことがなかったら、その子はずうっとうつむいたままの日常を過ごすことになったかもしれません。大人は遠慮しがちでなかなか聞けないし、行動に移すこともできないことでも、子ども同士ならすっと乗り越えられる瞬間があります。
また、色とりどりのキャンドルを作るプログラムがあったとき、どうやって色の違いを全盲の女の子に教えたらいいのだろうと、大人だったら思い悩みます。するとブラジルの子どもたちは、こんなふうに全盲の女の子に色を説明しました。「これは夏の暑い日のあたたかい色だよ」と、女の子が想像できる色の説明をする。正しいとか正しくないということではなく、女の子が違いを理解できるよう説明の仕方を変えていくこと。 こうしたことは、大人が邪魔をしないで伸ばしていく工夫が必要なのです。当事者に合った方法で寄り添っていくことが求められているということ。 苦手意識の感情を持つことは止めることはできないけれど、それを出すか出さないかの出し方はコントロールできる。
自分ひとりでできなくとも、周りがサポートしてくれることもあります。例えば、坂井さんのお父さんは坂井さんが幼いときに交通事故で大けがをしましたが、お父さんがお母さんに唯一託した言葉は「交通事故を引き起こした相手のことは伝えないでくれ」ということでした。事故の相手を教えると、子どもたちは必ず相手を「憎む」という感情を持つ。子どもたちに憎むという感情を持たせたくない。お父さんはいつも他者のことを気にかける人でした。 このお父さんは本当にたくさんの財産を坂井さんに残してくれていて、小学校6年生の時にアラスカでのキャンプにも参加させてもらいました。このキャンプを通じて、言葉の違いは大きな違いではないということも実感します。自分と他者は違うのだから、違うということを理解しないとしんどくなる。言語よりも、もっともっと多くの違いがあることを体験させてもらったのです。
そして次のワーク「見た目だけで違うところと同じところを書き出してみる」 に移りました。・質問しないで書き出してみる ・質問して、そこからの情報を得る(ゆるいインタビュー) このワークからは、多様性と付き合うコツ、先入観を持たないことを学ぶことができました。 他者の違いはなかなかわからないことが多い。これは先入観がもたらすことで、これは避難所運営にも言えることです。先入観に凝り固まった中高年男性が運営者になると、独善的な避難所になり、どんどん過ごしづらくなっていくことが多い。 これを回避するためには、避難所の運営側に多様性をどれだけ持ち込めるかがカギなのです。障害者や外国人だけでなく、女性や乳幼児、多様な人たちが過ごしやすい避難所にするためには、多様な人が運営者側にいることがポイントになります。
参加者の皆さんそれぞれに気づきを残して、坂井さんのお話は終了。ここで、参加者の中の希望者の皆さんには防災危機管理センター屋上のヘリポートを見学していただきました。ここはなにしろ見晴らしがいいのです。晴れていたら立山連峰もくっきり見えます。
(写真は日本語学校の学生たちと見学したときのもの)
休憩の後はもうお一人の講師、渡嘉敷唯之さんの講義とワークショップ。渡嘉敷さんは今後起きる災害に備え、介護福祉施設等の事業継続計画の策定や訓練、見直し等の運用まで含めた事業継続マネジメント体制の構築を行っている静岡市の株式会社Coactの代表取締役です。
渡嘉敷さんは実際の過去の避難所運営の話をたくさん盛り込んで、具体的なお話をたくさんしてくださいました。それに続いてのワーク、まずは「自閉症・発達障害のある方の避難所や避難生活について考えよう」
6つのグループに分かれてのワーク。(グループの中にはなるべく外国の方、行政の方、自閉症や発達障害の支援者の方に入ってもらうようにしました)課題について考えたあとは、やさしい避難所・避難生活に必要なことを話し合う時間。各グループでの話は時間を追うごとに盛り上がっていきました。富山市の藤井市長もお忙しい中、ワークに一部参加してくださいました。
続いて外国人の避難所での様子などについての講義の後で、二つ目のワーク「外国人の避難所や避難生活について考えよう」こちらも、困りごとについて話したあとで、何が必要かを話し合う時間になりました。
そして最後に、各グループで、外国人にとって必要なこと、自閉症・発達障害の人にとって必要なことを5つずつ書き出してもらい、皆さんの前で発表してもらいました。
写真のような意見が出てきましたが(6グループ分ありますが、1枚だけご紹介)、何より大切だと思ったのは、今までつながりのなかった属性の人たちが平日の昼間からたくさんの意見を出し合っているということでした。非常時ではなく、平時から多様な皆さんと繋がりを持つことは、いざまさかの時に大変大切です。
こうしてワークが大変盛り上がり、最後のまとめの予定だったダイバーシティとやまの柴垣の持ち時間がほとんどなくなってしまいましたが、そこはわれらが柴垣さん。どうしても坂井さんや渡嘉敷さん、そして共催の富山県自閉症協会の東さんに聞いておきたいことを各グループからひとつずつ言ってもらい、そこに3人からお答えをいただくことで、皆さんとても納得した顔をされていました。
以下はアンケートに書かれた皆さんの気づきです。
実はこのセミナーは連続講座です。1月には外国人住民や、自閉症・発達障害の当事者の方々にも参加していただく予定にしています。坂井さん、渡嘉敷さんにももう一度お入りいただきます。さらに多様な皆さんが集まることで、どんな化学反応が起きるのか、とても楽しみにしています。
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